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「ひきこもりハッカソン」はひきこもり支援の新しいモデルになり得るか〜もしかして世界初の試み?「ひきこもりハッカソン」の一部始終を前後編2回に分けて一挙掲載〜(後編)

テキスト:佐藤 啓
編集:トイロハ・ワークス編集部

※前編はこちら

最大の難関を乗り越えてチームで共有できたテーマ

2日目の午後は、新チームでの開発テーマ設定です。この開発テーマを決めるところが、「ひきこもりハッカソン」としての最大の山です。ここでテーマが決まらないと、2日目夕方からの開発は始められないわけですし、そもそも開発も24時間を切る時間内でプロトタイプを見せる必要があるわけですから、あまり大きなテーマのものは難しいということになります。

開発テーマについては、先ほどの3大テーマである「コミュニケーション」「タイムマネジメント」「アンテナ力」というキーワードを取り入れつつ、「○○なとき」「私は○○のために」「○○したい」という「タスクストーリー」を出していくところからスタートしました。

このタスクストーリーはチームメンバー各自で考えるわけですが、1つのストーリーを考える時間は40秒、8本を考えることにし、トータル時間は5分20秒という、非常に短い時間のものでした。

実は後から分かったのですが、この進め方はひきこもり当事者・経験者にとってはかなりきついものだったようです。まじめすぎるがゆえに、できない(書けない、思いつかない)ことに対して非常に悩んでしまい、自分を責めてしまうことがあったり、加えて、運営側のミスでオンライン参加者にうまく時間が伝わっておらず参加できていなかったりと、色々と反省すべき点がありました。

実際に一部のひきこもり当事者参加者が、気分が悪くなってしまってしばらく席を離れたりすることがありましたが、そこはファシリテーターでひきこもり経験者の泉さんが、散歩に連れ出してうまく気分転換をさせてくれたりなど、裏できちんとフォローを入れたこともあり、なんとか完全離脱者を出さずにすみました。

「できなくてもよい」「自分を責めなくてよい」というアナウンスをもっと強く打ち出した方がよかったなど、今思えばタスクストーリーの進め方には改善点が多々あります。それでも参加者が互いにフォローしながら、チームの結束をより高めてもらえたのは、今回の「ひきこもりハッカソン」を終えて私が一番感じた「包摂が自然とできる環境やチームを作れた」こととも繋がり、結果として良かったと思っています。

ちなみに、チームによってはオンライン参加者がうまく参加できなかったことを踏まえ、開発が始まってからの時間であえて再度40秒きっちり計測して8本のタスクストーリーをオンライン参加者も含めて全員で書き出すことを自発的にやったところもあったようです。この話を聞いたときに、本当に「ひきこもりハッカソン」をやってよかった、こんなにもひきこもり者と一般参加者が、互いの垣根を取り払って一つのチームにまとまり、自然と包摂ができる環境を作れたということに感動を覚えました。

このタイミングからは、今回のハッカソンの実行委員会委員長でもある、和歌山大学の満田成紀先生にもファシリテーターとして入っていただき、五十川さんとのダブルファシリテーター体制で、最大の山をハッカソン経験者2名がうまくリードして乗り越えていくことができました。

タスクストーリー8本の書き出しが終わり、各チーム5〜6名のメンバーで共有をし、最後は最も実現可能性が高そうなテーマ1本に絞っての発表が16時から行われました。最大の難関であるタスクストーリーを乗り越え、チームで共有し議論する中で最後に絞られたテーマは各チームとも個性的で、非常に面白いものばかりでした。

各チームのテーマを簡単に紹介すると、

「コミュニケーション」
① ひきこもり者がコミュニケーションが苦手なことから、通常の文章を「カタコト」に変換し、誰でもカタコトで話すことで逆にコミュニケーションストレスを減らすアプリ
② 心拍数の変化とその時の気分をAIで学習し、おすすめの映画などのコンテンツを提示するアプリ

「タイムマネジメント」
① 絵を描くのが好きなひきこもり者が多いことに基づき、落書きを通じたコミュニケーションが取れるSNSサービス
② ひきこもり中の運動不足を解消すべく、スマホ閲覧中に一定時間が経過すると、強制的に画面がロックされ、運動を一定時間することで画面ロックが解除されるアプリ

「アンテナ力」
① 「もやもや感」を解消するのではなく、同じもやもや感を持つ仲間を募っていろいろ行える「もやもやSNS」
② ひきこもって部屋にいる間の時間を有意義にするため、ランダムな「お題」をクリアしてポイントをためていくアプリ
③ ひきこもり者の就活が難しいことに鑑み、ひきこもり経験者で仕事をしている人と、ひきこもり当事者で仕事を探している人をマッチングさせ、2人一組で就活できるサービス

このようなものになりました。

改めてこうやって書き出してみると、どれもサービスやアプリとしての発想が面白く、かつ、ひきこもり者の課題に寄り添っていることがよく分かります。実際にIT企業などが興味を持ち、開発したりスポンサーになってくれそうなレベルのアイデアもありました。このテーマが出そろった時点で、今回の「ひきこもりハッカソン」の成功はほぼ見えた形になりました。

この時点で17時。ここから3日目の16時までの約23時間が、開発タイムであり、参加者側の「本当の本番」がスタートとなります。

徹夜は当たり前の開発と、表彰式まで

2日目の夕食が18時頃からスタートするのと前後して開発が本格的に始まるわけですが、開発が始まると運営側の出番は少なくなります。各チームを回って様子を聞いたり、雑談につきあったり、時には開発の技術的な質問に答えたりなど、各々のファシリテーターができる範囲でサポートをしていきますが、主役はあくまでもエンジニアやデザイナーとなります。

通常のハッカソンでも開発フェーズに入ると、エンジニアやデザイナーの負担が大きくなってしまい、他の人たちは手持ち無沙汰になることもあると思いますが、今回の「ひきこもりハッカソン」では、ひきこもり者も含め、エンジニアやデザイナー以外の人たちができることをチーム内で考え、チームに対して一人一人ができることで貢献していくということが自然とできていたように思えます。

ある参加者から言われて非常に心に残った言葉は、「ひきこもり」をテーマにすると、自然と「ひきこもり」に関心のある参加者が多くなり、そういう人たちは相手を理解したり多様性を認めることがスムーズにでき、結果としてトラブルはあって当たり前、できない人がいて当たり前という優しい雰囲気が自然と生まれる、ということでした。

もともと私自身、ひきこもり者の多くが心優しくまじめな人が多いと思っていました。それにプラスして、一般参加者も「ひきこもり」というテーマを置くことで、自然と多様性を認められる、心優しい人たちがスクリーニングされて集まってくるのだとすると、いわゆる相互理解はもちろん、互いの包摂を自然に行うことも無理なくできるわけです。「ひきこもり」の持つ可能性を改めて感じる瞬間が、この開発フェーズにおけるチームの雰囲気の良さにはありました。

各チームそれぞれ、マーケティングや調査、テストなど、エンジニアやデザイナー以外の参加者でも、あるいはひきこもり者であってもできることを工夫して設定し、集中して開発を行っていきました。

そうこうするうちに時間はあっという間に2日目終了の22時となりました。最終日、3日目の朝は9時からスタートで、22時から翌朝9時までの時間をどのように使うかは自由ですが、無理をしないように、そして3日目は9時スタートは厳守で、ということだけを伝えて、あとは参加者の皆さんにゆだね、2日目の公式時間は終了しました。

私自身は運営として常に気持ちを張っている状態が続いていたので、この2日目の夜は疲れ果ててしまい、お酒も飲まずに早々に就寝したのですが、ファシリテーターの泉さんは「皆さんが徹夜する雰囲気を見たい」ということで、イノベーション・スプリングスにそのまま泊まり込むことになりました。

おそらく泉さんの裏の意向として「ひきこもり者に何かあった時にフォローできるように」ということもあったと思いますが、会場に運営メンバーが何名か残ってくれたおかげで、安心してイベントを継続させられたのもポイントでした。

ちなみに、この夜中の動きはいろいろドラマチックなことがあったようですが、詳しくは参加者の一人が参加レポートとしてまとめてくれていますので、よかったらこちらの「ひきこもりハッカソンに参加!」もご覧いただければ幸いです。

これ以外にも、開発のヒントがどうしても得られず、朝の4時に学生チームの開発メンバーがファシリチームの部屋に来て教えを乞うことがあったり、私が寝ている間にいろいろな出来事があったのもハッカソンならではでした。

ほぼすべてのチームがプロトタイプを完成

3日目、最終日の朝、各チームのメンバーがぽつぽつとメイン会場に集まり始めました。前日の朝とは打って変わって明らかに疲労の色があり、徹夜もしくはそれに近い状態で、かなり詰めて開発を続けていたことが分かりました。それでも、エンジニアを中心とする各メンバーの集中力は変わらず、3日目16時の成果発表まで一気に開発を進めます。

なお、最終プレゼンは持ち時間3分厳守です。ハッカソンが始まってからここまでの発表は、時間を多少経過しても大目に見ていましたが、最終プレゼンはそのあとの表彰やアフターパーティー、さらには帰りの電車等の時間の関係もあり、完全に時間厳守で行うことを決めていました。そのことを各チームに伝えたところ、それぞれ「プレゼンもかなり準備を周到に行わなければならない」ということで、開発を進めながらのプレゼン準備を16時の時間ぎりぎりまで行いました。

さて、その16時。2月15日の19時からスタートしたイベントも、ここまでで45時間が経過しています。「はじめまして」から始まった「ひきこもりハッカソン」ですが、参加者の皆さんもここまで濃密な45時間を一緒に過ごすと、完全にチームとして、そして会場全体としてまとまっています。

成果発表は各チーム3分厳守のプレゼンです。中には3分でうまく説明できずに悔しい思いをしたチームもありましたが、そこはビジネスの現場ではよくある話。私自身も3分きっかりで心を鬼にして「有難うございました、では次のチームお願いします」と、淡々と進めていきました。プレゼンは時間厳守が基本であること、そこから何かを学んでくれたら、今回の経験は失敗ではなく貴重な学習になります。

世の中には失敗なんてない。成功の反対は失敗ではなく学習だということを、このハッカソンを通して感じてもらえたら、ひきこもり者も一般参加者も、また考え方が少し変わるのではないか、そんな風に思いました。

各チーム3分厳守の最終プレゼンは、どのチームも素晴らしい内容で、かつ、ほぼすべてのチームが実際に動くプロトタイプを完成させていたことも、第一回目の「ひきこもりハッカソン」の成果としては、非常に嬉しいものでした。

せっかく作ったプロトタイプですから、きちんとデモしたり評価を得られる時間もあった方がよいということで、プレゼン終了後、審査を行う30分ほどの間で、終了時のアンケートと、各チームに送る「デジタル寄せ書き」を書いてもらいつつ、デモもできるように時間設定をしました。

その間、運営側は「最後の大仕事」である評価と審査を行わなければなりません。正直、今回の7チームの開発成果は、もともとのアイデアも含めて、どれも甲乙つけがたいものでした。そのため、7チームそれぞれに何らかの賞を設定するとともに、ひきこもりハッカソンとしての最優秀賞を一つだけ決めるということで、大枠の流れが決まりました。

今回、協賛いただいた企業、団体からいただいていた数々の商品とともに、7つの賞の名前を決めてどれをどのチームに送るかは割とすんなり決まったのですが、困ったのは最優秀賞でした。本当に、どのチームの開発成果もすばらしいもので、審査員の側でもかなり意見が分かれました。

17時、審査発表と表彰、総評の時間、ここまででハッカソン開始から46時間です。参加者、運営側それぞれ疲れもピークですが、疲れすぎて皆さんテンションがおかしくなっていることが分かります。そのまま、勢いで審査結果の発表と表彰に入りました。

今回のポイントは、誰にどれだけの賞が贈られるか、事前には何一つアナウンスしていなかったことです。全チームが表彰されることが最初からわかっていたら、少し拍子抜けするところもあったと思いますが、あえてドキドキ感を保つために、すべて伏せて賞の名称とチーム名を順に発表するという形で、最優秀賞を除く7賞をまずは発表しました。

各チームが呼ばれるたびにガッツポーズと拍手の嵐が起こり、本当に「ひきこもりハッカソン」をやってよかったと感じました。7賞の発表で、全チームに賞がもれなく贈られたことで「こういう形なんだ」と参加者の方は思ったと思いますが、その後で審査委員長の満田先生から、司会をしていた私に「何か賞、忘れていませんか?」との声が。もちろんこれは「事前の摺合せ」通りなのですが、そこで「あ、忘れていましたね。最優秀賞です」ということで、会場は爆笑の渦に。同時に、どのチームが最優秀賞を取るのか…と、緊張が走るのが分かります。

今回の最優秀賞は、「仲間・居場所・仕事作りプラットフォーム H2H」というサービスに贈られました。「ひきこもり者の就活が難しいことを鑑み、ひきこもり経験者で仕事をしている人と、ひきこもり当事者で仕事を探している人をマッチングさせ、2人一組で就活できるサービス」というもので、ひきこもり者が抱える課題に真摯に向き合っていること、また、2人一組での就活というアイデアが斬新だったこと、サービスとして提供すればめちゃコマを始め、企業側としても組みやすいことなどを総合的に評価し最優秀賞となりました。

実は、この最優秀賞のチームにはデザイナーがおらず、画面周りは非常にシンプルなものだったのですが、中身をしっかり実装していたところを審査員が見ていたこともあり、「ハッカソン」という趣旨にも合致することから今回の受賞となりました。

受賞を聞いた時のチームメンバーの驚きの表情と、そのあとの喜びの表情は、今でも思い返すことができるくらいです。ちなみに、この「H2H」のアイデアは、めちゃコマが引き継いで、めちゃコマのサービスとしてリリースとなる予定です。

「ひきこもりハッカソン」を終えて

表彰と総評が終わり、その後は皆さんの慰労会を兼ねたアフターパーティーです。今回のひきこもりハッカソンの一番の特色は、チーム内はもちろん、チームの枠を超えた交流も自然と行われており、皆さんが互いに互いをリスペクトし、感謝の気持ちを持つことができていたことではないかと思います。

それが一番よく出ていたのが、このアフターパーティーでの参加者の方の会話でした。誰からともなく「あの時のあれ、すごく助かりました」とか「○○さんがいたから、ここまで来られました」など、互いへの感謝とリスペクトが自然に伝えらえているシーンを何度も目にしました。

ひきこもりの方と話をしていてよく感じる「肩身の狭さ」ですが、これは別の言い方をすれば「居場所のなさ」でもあります。居場所というのは「自分自身がいてもよい場所」であると同時に「自分自身に何かしらの役割があり、その役割を果たすことで感謝され、自分自身が認められたと感じることができる場所」でもあると、私は考えています。

ひきこもり者の場合、場合によっては自分自身の家族や家庭においてさえもこの「居場所感」を感じることが難しくなっているのではないかと思います。今回の「ひきこもりハッカソン」は、ひきこもり者かどうかは関係なく、すべての参加者に間違いなく役割があり、その役割を全員ができる範囲で果たし、その結果として「すべての参加者にとっての居場所」になり得たのではないかと考えています。

旧知のひきこもり当事者の一人もはるばる大分から参加してくれました。彼は2日目後半で体調を崩していったん離脱した後で、3日目の朝にまた戻ってきて、最後はアフターパーティーまで出てくれました。彼が「佐藤さん、今回はちょっと疲れましたけど、参加して本当に良かったです。楽しかったです」と言ってくれたことが、私にはとても嬉しい言葉でした。

はじめてのイベント、かつオンライン参加もハッカソンとしてはおそらく初の試みということで、反省点や改善ポイントも多かった「ひきこもりハッカソン」ですが、3日間を通して私自身、これはひきこもり支援の新しい形になり得ると強く感じました。

これまでのひきこもり支援の多くのイベントは「ひきこもり当事者だけ」「ひきこもり者を持つ家族だけ」「ひきこもり支援者だけ」といった形で、何かしらの線引きを行ったり、枠に当てはめて行うものが主流でした。

ひきこもり経験者でファシリテーターを務めた泉さんも認めるように、ひきこもり当事者だけで集まると、どうしても話題が暗く、ネガティブなものになりがちです。今回のひきこもりハッカソンのように「ひきこもり」をテーマにしつつも、ひきこもりには普段接点のない一般の方も一緒に集まることで、「ひきこもり」かどうかは関係なく議論や作業を進めることができるようになります。

ひきこもり者は「ひきこもり」である前に、一人の人間ですし、抱えている悩みも困りごとも、実は一般の人と大きくは変わらない。そのことがお互いに分かるだけで、「ひきこもり」に関する諸問題の大半は実は解決の糸口を見つけられるのではないか。

それにはやはり「ひきこもり」という課題はテーマとしては活かしつつも、色々な人が集まって皆で考え、手を動かせる機会が重要なのではないか。ひきこもり者も一般参加者も一緒に共通のテーマに従って作業を進めることで、相互理解を得つつ、ひきこもり者、一般参加者それぞれの「自己肯定感」を大幅に高めることができるのではないか。このようなことを強く示唆する「ひきこもりハッカソン」でした。

従来のひきこもり支援イベント自体も大事ですし、それを継続することで喜ばれる方も多いのも事実です。一方で、新しい支援の形を常に模索することも重要です。今回の「ひきこもりハッカソン」で得られた経験をもとに、第二回の「ひきこもりハッカソン」開催を2019年内に行えるように動いていきたいと考えています。

次回以降も同じようなレベルとクオリティを出すためにはかなりのブラッシュアップが必要であることは間違いないですが、ひきこもり者と一般参加者が同じテーマで議論することで、解決できることがあることを理解した今、このイベントを継続的に行えるための環境整備を行うことは私自身の大事な仕事だと強く感じています。

個人的には次回は福岡でやりたいと思っています。ご興味をお持ちの方は、企業、個人を問いませんので、ぜひご連絡をいただければ幸いです!

最後になりますが、「ひきこもりハッカソン」に参加いただいたすべての皆様に、心より感謝と御礼を申し上げます。有難うございました。

 

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