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お寺とコワーキングスペースが支援するテレワーカーとそのコミュニティ

Text:秦 博雅
編集:トイロハ・ワークス編集部

コワーキングスペース初体験は仕事場にしていたファミレス閉店がきっかけ

私は現在、大阪の豊中市でコワーキングスペース「Umidass」と、国内のコワーキングスペースを検索できるポータルサイト「コワーキングジャパン」を運営しています。

もともとは、京都のWEBコンサルティング会社で、大規模なWEBサービスのプロジェクトマネージャーなどをしていましたが、実家は浄土宗のお寺でその副住職でもあり、当時は会社員+副住職に加え、小さいながら個人事業もしてましたので、まさに「複業」という状態でした。

しかし、2013年夏ごろ、体調を崩して会社を退職することになります。退職後はあえて転職はせずに、個人事業として運営していたネットショップなどの運営などをしていました。商品を自宅に在庫していたので、当然、自宅から発送します。外に出かけるお寺の仕事以外は、ほとんど自宅での仕事が中心の生活を送っていました。

2014年になってネットショップも軌道に乗り、配送作業を物流会社に委託するようになって、ネットショップ以外の仕事を考える余裕がでてきました。しかし、これが意外と自宅では集中してモノを考えられません。

集中力が途切れるとテレビを見たり、ネットサーフィンをして過ごす時間がどうしても多くなってしまいます。そもそも自宅では、仕事モードに切り替えること自体が難しいのです。そこで近所のファミレスを仕事場代わりに使いはじめたのですが、これがあいにく閉店になってしまいます。

さて、次の拠点はどうしようかと思っていたタイミングで、自宅のある高槻市にもコワーキングスペースがオープンしました。それをきっかけにコワーキングに大いに関わることになります。

郊外にもニーズがあるはずだと考えて思い出したのは実家のお寺だった

最近でこそ、コワーキングスペースが地方都市や郊外にも増えましたが、当時は日本全国でもコワーキングスペースは200ヶ所くらいしかありませんでした。その約半数が東京に集中しており、曖昧な記憶ですが、大阪でも本町等の都心部を中心に20ヶ所もなかったのではないかと思います。

そんな状況でしたので、高槻市のような郊外型都市のコワーキングスペースは皆無と言ってよい状態でした。ちなみに高槻市は、大阪市と京都市のあいだに位置する人口約35万人 (2015年現在) の中核都市で、いわゆるベッドタウンです。おおよその規模と位置関係はつかんでいただけるかと思いますが、そのタイミングで郊外型のコワーキングを知ったのは、後々のことを思えばラッキーでした。

コワーキングスペースを利用してみると確かに仕事に集中することができます。また、会社員時代には意識しませんでしたが、「通勤」(コワーキングスペースに通う)というプロセスを挟むことによってON-OFFの切り替えもできます。そして、自宅で一人で籠っていると何とも言えない孤独感に襲われますが、その点も解消されます。

そうこうするうちに、あることに気づきました。コワーキングスペースは郊外でこそ必要なのではないか、ということです。「通勤時間がもったいない」「通勤電車に乗るのはイヤ」「都心部に車で行ったら駐車場代が高い」というようなことから、そもそも都心部に出ることができない(したくない)人もたくさんいるのではないかと思ったのです。

そこで、ふと思い出したのは実家のお寺に隣接するある建物です。もともとはお寺で法事を営んだ際の食事や、住職が開業した塾のために、30年ほど前に作られたものですが、そのうちバス送迎をしてくれる飲食店が増えたり、忙しくなって塾をやめたこともあって、ほとんど利用がされないまま物置のような状態となっていました。

そうだ、ここを使ってコワーキングスペースを運営したらどうだろう?

郊外でも一定のニーズはあるでしょうが、かと言って大きな売上になるとも思っていませんでしたので、まずは私の会社の事務所を置き、その一部をワークスペースが必要な人たちに使ってもらったらいいのではないか、というノリでした。本当に思いつきでしたので、他のコワーキングスペースはほとんど知らずにスタートしました。2015年6月1日のことです。

Umidass開業前は物置状態でした

さまざま属性の利用者が共用する郊外型コワーキングスペース

運営を開始して半年はほとんど人が来ませんでした。そもそもコワーキングスペースという言葉自体が世の中に浸透していませんでしたし、さらに郊外都市である豊中では誰も聞いたことがないという状況でした。

そこで、コワーキングスペースを知ってもらいたいと思いで立ち上げたのが、国内のコワーキングスペース検索エンジンである「コワーキングジャパン」(当時はcocopoという名称)です。そんな状況からスタートしましたが、3年目に入った現在では、毎日10〜20人の人が利用してくれています。

利用者の属性や目的はさまざまですが、郊外型として予想していた人もいれば、そうでない人もいます。少し紹介しましょう。

・都心部まで出たくないが自宅では仕事に集中できないフリーランスや起業家、個人事業主
これは私の想定していたとおりの利用者層です。想定外の点としては、思ったよりもIT系の人は少ないということです。旅行業や輸出入業、セミナー業など、オフィス滞在時間が短い事業主の方の利用が多いです。また、起業家と言っても事業を大きくしていこうというタイプの人は比較的少ないです。

コワーキングの様子

・テレワークをしている子育て中のお母さん
最近は、子育てを応援するコワーキングスペースも増えていますが、「Umidass」は最初から子連れ利用OKにしていますので、お子さんと一緒に利用される方もおられます。例えば、以前は梅田方面のコワーキングスペースで仕事をしていたけれども、子供の送り迎えを考えるとほとんど仕事時間がないので困っておられたお母さんが、自転車で来られて利用されています。

・受験勉強中の学生や資格試験勉強中の社会人
勉強目的の利用者も多いです。有料自習室は近隣にもありますが、女子高生などは無人運営の自習室よりもオープンスペースでスタッフ常駐のコワーキングスペースの方が安心感があるということで利用してくれています。

・大阪に進出をし始めた企業の営業拠点
大阪に進出を開始した企業の利用も多いですが、実はこれは想定外でした。大阪空港や新大阪駅からアクセスが良いという利点はあるのですが、車での営業スタイルの企業の場合、社員が集まるのに駐車場があって、コインパーキングが安い郊外というのはメリットが大きいとのことでした。

・さまざまな用途でのレンタルスペース利用
仕事以外で、レンタルスペースとして利用するという方も多いです。ひと昔前なら自宅を使っていたような、例えば、お年寄りが友人同士で集まって麻雀をしたり、ママと子供でのホームパーティなどでの利用です。

こうした利用者の皆さんの共通点は、都心に出るということにあまり価値を感じていない、ということだと思っています。

仕事をする装置としてオフィスをどこに持つかという時、さまざまな要件を検討する必要がありますが、その多くは「アクセスの良さ」と「企業イメージ」ではないかと思います。そして、条件が良いほど当然ながら賃料は高くなります。このことに大して価値を感じない事業者にとっては、郊外の方が利便性も経済性も高い場合があるのだと思います。

子連れで利用風景

子連れで利用風景

地域コミュニティや相談場所としてのお寺とコワーキングスペースの親和性

お寺としても、コワーキングスペースを運営することは利用者にとって価値があるのではないかとぼんやりとは考えていましたが、実際のところどうなるかはわかりませんでした。

昨今、「お寺離れ」という言葉もよく聞かれますが、これにはさまざまな理由があります。もともとお寺は江戸幕府の機能の一部だった側面がありますが、そういう機能が必要なくなったことや、核家族化や高年齢化が進んできたことなどの時代の流れの中で、最も身近で相談できる場であったお寺が、今となっては逆に近寄りがたい存在になっています。

もはやお葬式や法事は不要というお考えの方もたくさんおられますし、その考えについて否定する気もありません。ですがその一方で、気にはなっているけれども、お寺に相談するのはハードルが高いと感じている人も多くおられます。

昔からお付き合いのあるお寺があればそこで相談をすればよいのでしょうが、現代ではさまざまな理由で縁遠くなっているケースも少なくありません。とはいえ、見知らぬお寺に相談するのも気が引けると感じるのは当たり前のことです。

そんな中、「Umidass」の利用者の中には私に仏事について相談される方もおられます。私は「Umidass」にいるときには、僧衣などまとわずカジュアルな服装ですので、副住職も兼ねていると申しますとほとんどの方が驚かれますが、そのまま雑談の延長で仏事について相談されるケースがあります。

結果的にうちのお寺でお葬式や法事を執り行うケースもありますし、他のお寺をご紹介することもありますが、いずれにしましてもおかげで仏事に関する不安が払拭できたと喜んでいただいています。

それとは別の側面では、特に中高生のお子さんの受験勉強の自習室を探しておられる親御さんからは、お寺にあるということで安心感を持って利用できるという声もよくいただきます。

また、最近は、自治会やPTAなどのコミュニティに積極的に参加したいと思う人はそれほど多くないと感じています。ただし、誰かとコミュニケーションを取るということ自体を否定する人は少ないです。

「Umidass」の利用者は、それぞれが独立した仕事や目的を持って利用していて、本来、交わることのない年齢層、仕事領域の人ばかりですが、そんな人同士でも実際に関わりが生まれています。

例えば、大学受験で進学する大学選びに悩んでいる高校生の声を聞いて、志望校を卒業生した利用者を紹介したりしますし、相談を受ける側の利用者の方もきちんとその高校生の相談に乗ってあげています。こうした地域のコミュニティとしての機能をお寺が担うのは、お寺本来の存在意義でもあると思います。

郊外にある施設を見直し再活用することで今後増え続けるテレワークの受け皿に

これからテレワーク(リモートワーク)をする人が増えてくるのは確実です。そして、テレワーカーが多く住んでいるのは郊外です。これまではテレワークを自ら望む人がテレワークをしていたので、自宅でも仕事スイッチを入れることができる人が多かったかもしれません。

しかしこれからは、本人が望む望まないにかかわらずテレワークをする必要が出てきます。そんな時、通勤時間というロスを減らすと同時に、ストレスなくスムーズに仕事ができる環境が郊外にあれば大いに助かるはずです。そういうニーズの受け皿がもっと増えればいいと思っています。

私の場合は、お寺といういわば資産を活用したコワーキングスペースを郊外に運営することで、その受け皿としています。ビジネス(利益)という側面だけを考えれば都心部で運営する方が大きなお金が動きますが、しかし、郊外だからと言って全く利益が出ないわけではありません。

お寺や神社、公民館など、かつてはコミュニティとしての機能を持っていた施設を見直すことで、新しい可能性が期待できるのではないかと考えています。

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