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シェアリングエコノミーとキャッシュレスで巧みにビジネスする現代中国若者事情

Text:石田 亮
編集:トイロハ・ワークス編集部

珠江デルタの省都、広州という街

私の仕事は貿易なのでそれなりに海外に出ることが多い。今回、広州に来た目的は広州交易会の視察で、これは中国最大にして121回目と歴史のある巨大見本市である。会期は3期に分かれ、それぞれが1週間〜3週間に渡り巨大な会場に中国のありとあらゆる物が一堂に介しているというものだ

広州は面白い街だ。旧市街と新市街はおよそ10キロほど東西に離れており、実は歩いてはっきりと解るほどにいきなり都市景観が変わる。ツーリストが広州で余暇を過ごすのならば旧市街に泊まるのがいい。

そこには思い描いた通りの古き良き中国の姿が残っていて、食は広州にありと謳われた広州酒家等に代表される有名なレストランも集中している。細い迷路のような路地裏を歩けば、いつの間にか市にぶち当たるような、人々の生活が垣間見えるような世界が広がっている。

今回、私が泊まっているのは新市街の中心地、珠江新城というビジネスエリアだ。国の肝入りで開発されたエリアはやけに凝った造形の高層ビルが立ち並び、片側3〜4車線の整備された道路が碁盤の目に張り巡らされている場所である。

飲食店は欧米人をターゲットとしたアイリッシュパブや洒落たバー、イタリアンをはじめとするウエスタン料理、ヌーベルシノワの中華などが立ち並ぶエリアで、ビールの値段も下手をすると日本よりも高い。どこを眺めても中国らしさは微塵もなく、かといって世界のどこかに似ているという事もない、実に不思議な街だ。仕事をするには便利だけどツーリストにとっては至極退屈な街。

が、この場所こそが広州の今の姿だ。観光で訪れる街はなかなかその本来の姿を見せてはくれない。このニューテリトリーを歩けばそこに中国的文化などはどこにも見当たらないのだが、実際のところこれがこの街の最先端であり、中国各地からお金持ちがこぞってここに集まり住んでいる、そういう場所である。

Air B&Bを利用する理由

広州に来たのはこれで都合4度目だが、前回からAirB&Bを使っていて、今回も前回と同じホスト、Lomanのところにお世話になっている。

私が彼のアコモ(宿泊先)を選んだのは、ホストのプロフィールに英会話教師と書いてあったのでコミュニケーションを取るのに好都合と考えた事と、立地が広州新市街のほぼ中心であったこと、それからアップされていた内覧の写真がとても美しかったからだ。その部屋は高層階にあり2層吹き抜けの大きな窓から、広州のシンボルの一つでもある超高層のIFCタワーが真ん前に見える驚くほど景色のいい部屋だった。

今年、彼はさらに広い部屋に引っ越した。200㎡を超え相変わらず立地は街の中心で、大きな窓からは美しい夜景が見える。彼はここを住まいにしながら英会話教室をやり、かつ、AirB&Bで部屋を貸してる。以前の部屋もそのまま借りたままで、AirB&Bとして使っていると言う。

ドミトリーという宿泊カテゴリーが広州にはとても少ないのはお国の事情があるようだが、「現時点では中国でもグレー」と解釈してAirB&Bを利用したひとり旅をする人は多いだろう。ただ、「ひとり旅でホテルに泊まると結局、現地の人間とコミュニケーションをとることが少なくて退屈だ」という話でよく盛り上がるように、それは決して宿泊コストを下げたいという理由からではない。当然、「当たり外れ」はあると思うが、Lomanの考え方やゲストへの接し方は、私のようにローカルの人たちとコミュニケートしたいと考える者にとっては最高のおもてなしとなる。
 

「インテリアは全部僕がやりかえた」と言うLomanのセンスはとてもいい。設備も相当ハイレベルな事に驚く。広く取られたキッチンにはオーブンや電子レンジ、冷蔵庫が綺麗に埋め込まれている。書斎のスペースもあるし、リビングの窓は天井まであって、ゲストの使うバスルームはちょっとしたいいホテル並みだ。

我々日本人の大半が日本でたくさんの中国人を見ているけれど、その実、中国というものをどれだけの人が知っているかというと甚だ疑問だ。旅行をしている人なら香港や上海、北京に行ったことがある人はそれなりにいるかもしれない。かく言う私は北京には行ったことがないし、たいていは香港からエントリーするその周辺や沿岸部がほとんどだ。だからこうして、少し内陸に入った土地に来れば、少しだが本当の今の中国という国が見える気がする。

広州に見る中国のキャッシュレス化のスピード感

ちょっと軽く夕食に行こうよ、ということで近所の香港式のレストランへと僕らは向かった。食事しながらの話題はキャッシュレス支払いのWechatpayの事だった。僕はそこで、フィンテックの先端を行く中国の実態を思い知ることになる。

LomanテンセントWechat Payをローンチしたのは4年ぐらい前だけど、急速に広まったのは本当に最近のことなんだ。ちょうど1年くらい前から僕は財布を持って外に出ることがなくなった。だから、今ではたまに現金が要るなんてことがあるとびっくりする」

「例えば、日本だとLinePayとかがあるにはあるけれども、どう説明したらいいかな、システム自体への信用が足りないと思う。日本ではいまだに現金主義でクレジットカードすら持たない人も多ければ、使えないお店も多い。中国はどこでうまく転換したんだろう?」

Loman「それは僕にもわからない。ある日突然みんなが使い出した、そんな感覚だよ。クレジットカードというステップはすっ飛ばして、キャッシュからいきなりスマホ決済になった」

「例えば日本の個人商店だと、クレジットカードで決済する金額の3〜5%が手数料として発生する。そこがネックになっていると思うのだけど、WechatPayの手数料はどれぐらい?」

Loman「要らないね。ない。というか、なにその手数料って、ほんと?」

「そう、店舗側がその手数料を払うか、店舗がクレジットカードの決済手数料を上乗せしたりする」

Loman「へー。中国の店舗のクレカ決済の手数料は…、へー!たったの0.3パーセントだって」

「え!なにそれ」

Loman「ずいぶん違うなあ。とにかく、中国ではカードに対する与信不足っていうのがあったんだと思う。結果、あまりクレジットカードが普及しなかったんだけど、そのせいでWechat Payが爆発的に広がったのかもしれない」

「とにかく、手数料がないというのはすごいな。日本だと常に銀行経由の決済だから、何をしても手数料が上乗せされる。しかも、高い」

Loman「うちのおじいちゃんとおばあちゃんは80歳だけど、クレジットカードは作らなかったけど、WechatWechat Payは使ってるね。もう、完全に生活のインフラとして成立してる」

「そういえば、Lomanの英会話教室の授業料とかはどうしてるの?」

Loman「以前はもちろん銀行振り込みか現金だったけれど、今はほとんどがWechat Payを使う。ほら、見ててね、いまから君のWechatアカウントに1元送ってみるから」

「来た、来た、すごいね」

Loman「実は、Wechat Payがすごいのはそこじゃない。ちょっとこのテーブルのQRコードをスマホで読んでみてくれる?」

「うわ!メニューがずらっと出て来た。すごいね。もしかして…」

Loman「そう、それで注文するんだ。そうすると厨房にオーダーが通る」

「で、決済もこれで済ませてしまう?」

Loman「そう。だから食べ終わったら最後に決済ボタンを押して、はい終了。僕としてはちゃんと履歴も残るから管理しやすいし、お店の方も面倒なレジなんていらないから楽なんだよね」

QRコードを使えば、初期投資費用が店舗にも顧客にもほとんど発生しない。このシステムを導入することで店側は顧客管理やデータの集積ができる点もメリットとして大きい。

なお、私もその便利なWechatのアカウントにクレジットカードを登録したが、実際には支払いはできなかった。これは中国当局の管理で国外のカードは使用できないようになっているからだ。現時点では、中国の銀行の口座を持つしか方法がないようで、我々がこの電子決済の恩恵を受けるにはややハードルが高い。

日本は果たして次のステップに進めるのか

日本人はやたらとネット上で個人情報が漏洩することを心配する。SNSを忌避する人にその理由を尋ねても、ありもしないようなただ漠然とした怖れを感じているだけで曖昧な答えしか返ってこないだろう。よく検証もしないで、闇雲に否定するような傾向が日本人にはありはしないだろうか。

そんな理由なき恐れのハードルを中国はやすやすと超えて、都市部では完全にキャッシュレスになっている。Lomanの話からすると、しかもそれは年齢層には関係ない。日本でも同じようにスマートフォンを財布代わりに使ってキャッシュレス化を進めることができるのだろうか。マイナンバー制ですら嫌悪する国民には、容易い事ではないように思う。

たまたま103日付の日経新聞に東京、広尾にあるキャッシュレスに特化したサラダ専門店「クリプスワークス広尾店」の記事が出ていた。翌4日から「現金お断り」に切り替えたのだそうだ。キャッシュレス化によって現金管理に割く作業時間が、1日あたり90分短縮されたという。ただし、支払いはクレジットカード、もしくは電子マネー。キャッシュレスとは言え、Wechat Payを使いこなす中国の現状を見ると、まだまだ一部の機能しかない。

インターネットとスマートフォンの相性はとても素晴らしい。それがもたらしたものは本質的なボーダレス社会を実現する可能性だ。高価なPC端末を購入することなく、いつでも手元でアップデートされ続ける最新の機能を、インフラが整っていない国や地域でも手にする事が可能になりつつある。

それは、既得権や既存の価値の変化を意味する。そして、テクノロジーはそのスピードをなお一層上げて進化している。iPhone3が日本に鳴り物入りで登場したのは2008年の事だ。驚くべきことに、たったの10年前の出来事だった。

Lomanの英会話教室は個人授業スタイルをとっている。このロケーションでこれだけの部屋を維持できるのだから、お金持ちのご子息の生徒が多いのだろうし、そういった家庭では英語という言語スキルは必須であると言うことをよく理解していて、そのための教育費という投資を惜しまない。彼はそのほかに翻訳やデザインの仕事もやっている。時には趣味のギターを弾きながら小さなコンサートをここで開いたりする。この部屋はその場所と内覧の美しさのせいだろう、撮影用にレンタルする事もあるそうだ。

現代の中国の若者たちは、こうして自由にその能力を発揮しながら自分の世界をどんどん作り上げている。彼の働き方はこれからのライフデザインとして現地メディアでもドキュメンタリーとして取り上げている。

テクノロジーの進化を巧みに利用して生きていく

彼の家にはさまざまな国の人が泊まり、そこでまた新たな関係性が生まれてゆく。ここでは情報統制が敷かれていて、FacebookやGoogle、TwitterやLineが全く使えないのだが、だからと言って不便かというとそんな事もない。要するに、インターネットのインフラはGAFA (Google,Amazon, Facebook, Apple) に依存しない環境でも問題なく機能しているという事だ。Lomanは言う、「毎日が刺激的だよ」と。

中国は共産主義国家ではあるが、部屋から見える美しい夜景と街行く高級車の群れを見ていると、日本の方がよっぽど共産主義だと思うのは、私だけではないだろう。そして、それはもはや中国に限ったことではない。バンコクでは一食5万円の寿司屋が予約で毎日満席だし、シンガポールではホンダフィットの価格は700万円を超える。それを対価として払う事ができる人たちが既にたくさんいるわけだ。

中国に最初に来たのは確か15年ほど前だと思う。その頃から来る度にまるで違う街のように凄いスピードで変化していく事を肌で感じていた。確かに最初は、それはあらゆる事や物の模倣だったと思う。

しかしこの数年は明らかに違う。既にここからたくさんのものが産み出されている、そういうフェーズに突入している。確かに激しい貧富の差があるにせよ、富める者が増える事で国を牽引して行く力が加速する。その構造はそれこそ資本主義本来の姿ではあるはずなのだが…、と思わずボヤきたくもなる。

Akira、ちょっと映画でも見ようか?このプロジェクター、なかなか凄いんだよ。本体は小さいけれど音も絵もなかなかなんだよね。ほら、オンデマンドの映画の支払いも、スクリーンに出てくるQRコードをスマートフォンで読み取って…」

この国では、古いものと新しいものが無秩序と言ってもいいぐらいのパワーで絡み合い、ものすごいスピードで新しい社会を形作っていく。シェアリングエコノミーもキャッシュレスもいまどきの中国の若者にとっては、自前の能力を巧みにグレードアップしていくためのツールだ。こうした、数々の制限を受けながらも次々と生み出されるテクノロジーを駆使する貪欲さが、これからの時代には必要かもしれない。そう、我々、日本でも。

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